自作スピーカーコンテストに向けて #0号機.

やっと一山越えたわ.ずいぶん前からの話になるのですが、このblogの「2019年6月 9日 タイムドメインスピーカ TD307IIの改造」以降ずっと、3D プリンターでスピーカーのエンクロージャを作ることにトライしていました.かれこれ4ヶ月ほどでしょうか.途中いろいろと寄り道もあったのですが、もうこれで完成っていうモノが出来て、その出来映えを確かめるべく音楽之友社で行われる「第10回 自作スピーカーコンテスト」に応募しました.音楽之友社から出ているムック本である「これならできる 特選スピーカーユニット 2019年版マークオーディオ編」に付録で付いてくる「マークオーディオ製8cmフルレンジ OM-MF519」を使った自作スピーカーのコンテストです.話の順番としては、最初にTPUフィラメントを使ったグニャグニャに柔らかいエンクロージャって面白いんじゃないかと思い、いろいろやっているうちに結構いい感じの音が出るようになってきて、そのころたまたま上記のコンテストがあるのを知って、じゃあいっぺん応募してみるかっていうことで、頑張ってみました.

私は20年くらい前に、いくつかスピーカーのエンクロージャを作ってみたことがあります.バスレフの共振のさせ方とか勉強して、日本橋に行ってfostexのスピーカーユニットを買ってきたり、東急ハンズで木を切ってもらったりして.でも、けっきょく思ったほど良いものは出来ず、いくつも作ると置き場所に困るし何より金がかかるしで、最近は、そういうことからは全く遠ざかっていました.最終的にオーディオ機器として使っていたのは、TD307IIに専用アンプを組み合わせて、音源はiTunesでっていう環境でした.

久しぶりにスピーカーに関わってみてものすごくビックリしたのは、スピーカーユニットの進歩です.昔なら8cmのスピーカーなんてトランジスターラジオに使うくらいのイメージだったのに.仕組みや構造が大きく変わったわけでもないのに、何でこんなにちっちゃなスピーカーであんなに分厚い低音が出るのかメチャクチャ不思議です.気がつかないような部分でも世の中ってもの凄く変化しているんですね.

ということで、コンテスト応募作品に至るまでの過程の話になります.


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もともとは、TD307IIを改造してこんなモノを作りました.タイムドメインスピーカーの解説で出てくる話の中で、スピーカーユニットの後にグランドアンカー(重り)を付けて、不要な振動を排除するっていうのはとても理にかなっていると思います.


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今回使うスピーカーユニットはTD307IIの改造に使った「HiVi B3N」です.使い回しです.これを手で持った状態で音を出すと、思いのほか激しい振動が感じられます.その振動を抑えるために重りをつけます.


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とりあえず、こんなものを印刷しました.TPUです.


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そして用意した重りがこちら.オークションで入手しましたが、詳細不明の古い秤に使う分銅のようです.1個650gくらいあります.ネジで2つ連結してあります.


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こんなふうにネオジム磁石を取り付けます.マジックで印をつけて、表裏が交互になるようにしてあります.磁石がお互いにくっつかないように、さっき印刷した部品を使います.


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これをスピーカーユニットにくっつけます.かなりしっかりと結合できます.


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重さは1.8kgくらいになります.この状態で、手で持って音を出しても、振動はほとんど感じられませんでした.「余計な振動が起こらないのであれば、カチカチのエンクロージャに固定して動きを拘束する必要は無いんじゃなかろうか.これを水平にヒモでつるして、後に出る音を遮るためにビニール風船みたいなもので覆えば」っていうイメージが、TPUでエンクロージャを作ろうと思った最初のきっかけです.


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ポチポチとエンクロージャの形を考えて、まず印刷できる構造か確かめるためにミニチュアを印刷してみます.フニャフニャですので、形状は球形か卵形しかないでしょう.


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写真ではわかりにくいですけど、中は糸引きでモジャモジャになっています.3D プリンターのノズルの移動とか考慮した設計をしないと、鳥の巣のようなモノが出来てしまいそうです.


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それをふまえて、設計し直したモノを印刷開始です.スピーカー取り付け面が下になるような形状になっています.


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サポート無しで印刷するために、壁が生えるところは全部45°よりキツくならないようにしてあります.


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印刷完了しました.記念すべき0号機の完成です.なんで1号機じゃないのかというと、このあと5個くらい作った頃に、「どれがどれかわからなくなる前に番号を振ろう.これは5号機で...」とマジックで書いていたら、1つ数字がズレていて、こいつは0号機になってしまいました.


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スピーカー取り付け面から見たところ.見にくいですけど、45°以下に設定したはずなのに、いろんなところの斜め面がたれてきています.


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後ろ側はきれいな出来映えです.この時点ではまだ後方は開放というか、バスレフとかのことは考えてないです.


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一番の特徴である柔らかさ.じつは壁の厚さが5mm位あって、そんなに柔らかくないです.けっこう力はいっています.


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こんなふうにスッポリと、重りと結合したスピーカーユニットを入れます.この構造は問題ありませんでした.


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背面から出たネジをナットで止めます.とはいっても、重りとスピーカーユニットは磁石でくっついているだけなので、本気で締めると外れてしまいます.ナットを手で持って締める程度です.


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鳴らしてみた結果をアプリで測定しました.青いのが以前作ったTD307IIを改造したもので、赤いのが今回作ったものです.250Hzくらいで共振して、そこから低音はスコーンと無くなっています.ま、初めてだし、こんなもんですわな.

今回は、自分の考えているものが、印刷可能か、構造的に成り立つのか、その確認が一番の目的ですし.今回の結果をふまえて、スピーカーを後ろ向きで使うことはまず無いのに、スピーカーの後ろ側の方がきれいに出来上がるのは納得できないので、エンクロージャの印刷の向きを上下逆にすることにしました.後の方が細いので、それで本体を支えつつ、印刷時の前後の振動に耐えられるように、構造から考え直しです.この頃はまだ、1回ずつの変化というか進歩がわかりやすくて、楽しい時期だったなぁ.そのうちに、「まえ作った方が全然いいじゃん」っていう沼にハマっていきます.