勝浦観光ホテル.

私たちが勝浦で泊まったホテルが「勝浦観光ホテル」.名前から察しがつくように、観光地にありがちな団体客向けの大型ホテル、というイメージです(実際は大型というよりは中型くらいの規模です).1泊2食付きで¥16,000程度と、そう高価でもなく、観光地であることを考えればむしろ安いくらいです.はっきりいってぜんぜん期待はしていませんでした.何でこんなホテルを選んだのかというと、私の休みがなかなか確定できなかったことに加えて、旅行の直前に私が風邪でダウンしたこともあって、ホテルの予約をしたのが旅行に行く2日前の深夜だったのです.ネットで調べて、とりあえずあいているところを適当に選んだわけです.

実際にホテルに到着してみると、玄関前の駐車場に車が入った時点で係の方が出てきて、駐車場に車を止めるための誘導をしてくれます.けっこう親切なホテルかも.小さな鞄ですが荷物を持ってもらって、玄関からフロントにはいると、とってもきれい.ピカピカの新品です.去年リニューアルをしたということだったのですが、まるっきり新築のようです.けっこういい感じ.フロントには「今日のオススメメニュー」という黒板があって、いくつかメニューが書いてあります.係の方が言うには、「今日は生のマグロが1本入りましたのでお刺身などいかがでしょうか」と.ぜひ、1つお願いします、と早々とメニューを追加しました.

このホテルは「海洋館」と「黒潮館」という2つの建物がくっついて出来ています.今回泊まったのは海洋館のほうなのですが、こちらも部屋に入ってみるとピカピカの新築みたいです.リニューアルした方なんでしょうね.ちなみに黒潮館のほうは、たまたま通りかかったときに部屋の戸が開いていて、中に誰もいない様子だったのでチョロッとのぞいてみましたが、敷居のすり減り具合からしてもかなり古い建物だと思います.黒潮館のほうが1泊あたり¥1,000くらい安いのですが、それだったら海洋館を選んだ方が断然いいと思います.

温泉宿で楽しみなのが大浴場ですが、海洋館の最上階、7階にあります.が、大浴場というのはちょっと語弊があるような、中浴場といった感じでしょうか.海側は全面ガラス張りですが、海までは遠く、絶景というわけにはいきません.目の前に「ホテル浦島山上館」が見えるのですが、あそこからだったら見渡す限り太平洋、というような景色を見ることが出来るでしょうね.露天風呂もあります.こっちのほうがちょっと小さめですが、湯船につかって手足を伸ばして上を仰ぎ見ると、雨が降ったときのためでしょうか、ガラス張りの天井があります.その天井越しに快晴の空を見上げながら、ちょっと強めの風に吹かれていると、やっぱり気分はいいです.我が家のユニットバスよりは100倍くらい快適です.肝心の温泉の泉質ですが、まあ温泉とは名ばかり、という感じでしょうか.温泉の成分表示にはカリウムとかナトリウムとか書いてありましたが、色も臭いも味もありません.特に肌がスベスベするわけでもなく、普通の銭湯に入っているのと大差ないと思います.温泉としてはあまり期待しない方がいいですね.

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さて夕食ですが、これがけっこう意外でした.「せいろ蒸し」という料理を食べさせてくれる、とネットでは知っていたのですが、それが具体的にどういうものかは知りませんでした.現物を見るとけっこう面白いです.テーブルの真ん中に穴が開いています.その穴の直下の床の上にガスコンロがあります.夕食時になると仲居さんがお湯をいっぱいに張った寸胴鍋を持ってきてくれます.それをガスコンロの上、テーブルの中に入れて、コンロに火を付けます.寸胴鍋の口とテーブルの高さは一致するようになっていて、その上にせいろを重ねて置きます.「このまま30分くらい蒸したら出来上がりですので、その頃にまた来ますね」と言って仲居さんはいったん去っていきます.テーブルの上で湯気を上げるせいろを前にしてテレビのニュースを見る、という時間が30分続きます.いったい中に何が入っているのか、出来上がりはどうなるのか、ちょっと楽しみです.

時間通りに仲居さんがあらわれて、1つめのせいろを開けてくれます.中身は、よくわかりませんけど、「太巻きのテンプラに出汁をかけて食べるもの」とでも言いましょうか.出汁をかけてハシでくずしてお茶漬けのように食べるのです.真ん中に具の入ったご飯を海苔で巻いてあるのですが、海苔を揚げてから巻いたのか、巻いてから揚げたのか、油の味がします.何とも表現しづらい味ですが、まあ美味しかったです.

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2つめのせいろは、鯛ですね.30cmくらいの鯛が丸のまま入っています.食べた感じでは、たぶん養殖ではなくて天然物です.これはポン酢につけていただきます.まあ、そのまんまの味ですね.けっこう美味しいです.3つめのせいろは、ホタテ貝みたいな貝と、これまたちっちゃな伊勢エビです.こんな小さな伊勢エビって見たことありません.結婚式の披露宴とかで、冷たくなってカピカピに固まった伊勢エビのグラタンとか食べたことはありますが、それでも大きさは普通でした.こんなに小さな伊勢エビがいるんだぁ、と感心するくらい小さかったので、写真を撮っておきました.コースターの上にのるくらい小さいです.でも、味は美味しかったです.新鮮なものなんだと思います.で、貝なんですが、ホタテ貝のような形で色は赤です.食べてみると、ホタテ貝よりも味が濃くて美味しい.仲居さんに「これはなんていう貝ですか?」と聞いてみたのですがよくわからない様子.しばらくして厨房に問い合わせたとかで「ヒオウギ貝」というものだと、メモに書いて教えてくれました.初めて食べましたが、とっても美味しい貝です.

ちっちゃな伊勢エビやヒオウギ貝を食べているうちに、さらに新しいせいろを2つ乗せます.第4のせいろは和牛スライスとモヤシの蒸し焼きです.これもポン酢でいただきます.まあまあ美味しいです.最後のせいろは土瓶蒸しでした.中身は何かと見てみると、なんと松茸が入っています.この時期に松茸って季節感無いなぁ、と思いながらも、おちょこでいただきました.味は美味しかったです.松茸の香りはぜんぜんしませんでしたけど.

このせいろ蒸しに、いくつかの小鉢や刺身の盛り合わせ、ご飯と紀州梅の梅干しなどで夕食終了です.けっこういい感じに美味しかったです.何がいいって、目の前で蒸してますから、出来たて熱々をそのまま食べることが出来ます.そして、へたに凝った調理をしていないので、素材の味がそのまま楽しめます.私は凝った料理よりも単純な料理の方が好きなので、今回のような料理は好きです.また、多くの旅館やホテルでは、食事の質よりも量に重点を置いて、これでもかというくらいの品数を出して、けっきょく全部は食べきれない、ということがあったりしますが、今回の料理は私も嫁さんも、きれいに全部食べることが出来ました.そういう点も満足です.ただ大きな難点は、食事の前から2時間近くグラグラと湯を沸かし続けるので、今の時期でも窓にはビッシリと結露をするくらい湿気がこもります.冬ならまだいいですけど、夏場にはどうやって食事をするのか、ちょっと心配です.夏場はせいろ蒸しとは違った料理になるのかもしれません.

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夕食が終わると午後8時くらいなのですが、屋上で「マグロのカブト焼き」を振る舞ってくれるというのでさっそく行ってみました.なんでも5時間かけて焼き上げるんだそうです.行ってみるともうすでにいくらかの人たちがカブト焼きの前に並んで、身を取ってもらっています.私たちも列に並んでいただきました.最初は普通に身の部分をもらいました.これがマグロのカブト焼きかぁ.けっこう美味しいなぁ.夕食後の満腹時でなければさぞかし旨いんだろうなぁ、と思いながらも、もう一回並んでおかわりをしました.2回目は「目の周りの身と、目玉をください」とお願いしました.目の周りの身は、他の魚と同じようにゼラチン質が多くフルフルで美味しいです.目玉は、表面の皮を噛みやぶってみると、中身はドロドロです.クリーミーというよりはドロドロです.味は、やっぱり他の魚と大して変わりません.ドロドロをしゃぶり尽くして真ん中にある硬い玉を口から出してみると、まったく透明のビー玉見たいのが出てきました.これが水晶体っていうヤツですかね.マグロのカブト焼きを夕食に付けるという宿もあるようですが、1つを食べるのにはかなり難儀しそうです.少しは食べてみたいけれど、そんなに大量には食べれません.ということで、このホテルのようにアトラクションとして無料で参加できるようなシステムは、とてもいいと思います.うちの子供は3回おかわりをしてやっと満足したようで、部屋に戻ることにしました.

部屋に帰ると、当然のように夕食の残骸は跡形もなく片づけられており、きれいに布団が4つ敷いてありました.嫁さんと子供はもう1回温泉に浸かりに行き、わたしは缶ビールを飲みながら、ニュースを見ていました.缶ビールを飲むときに何かおつまみになるようなものがあれば良かったかなと思います.

というような宿でしたが、私の評価は、「コストパフォーマンスを考えればけっこういい宿じゃないの.ただし泊まるなら海洋館のほうで」ということになります.子供がいなかったころには1人5万円くらいの温泉宿に泊まったこともあるのですが、至れり尽くせりのサービスに、少々居心地の悪い思いをしたことがあります.あまり丁寧に気を回してくれたりすることが、私にとってはリラックスできない、何か緊張感をうんでしまうんですよね.食事でも、暖かいものは暖かく、冷たいものは冷たいまま、1品ずつ仲居さんに小出しにされると、「失礼します」という声を聞くたびに身構えてしまって、ビールを飲んでいても気持ちよく酔うことが出来ないのです.奉仕されることに慣れていないのです.貧乏性ですねぇ.だから私には今回の勝浦観光ホテル程度のサービスが、一番合っているのだと思います.

では、このホテルにまた来たいかというと、それはちょっと微妙ですね.せいろ蒸しもカブト焼きもけっこういいとは思うのですが、同じものを2度食べたいとは思いません.今度泊まるなら、食事なしのプランにして、夕食は勝浦の町の居酒屋かどこかで、というのがいいかもしれません.でも、初めて泊まる方にはけっこうオススメのホテルだと思いますよ.