キンギョ大繁殖.

うちの子の通う幼稚園では毎年プール開きの日にキンギョをくれました(もう二人とも小学生なので過去形).プールといっても、園庭に出して水遊びをする組み立て式のものです.そこに水を張った日に、水の中にキンギョを放して、子供たちがキンギョのつかみ取りをするという、キンギョにとってはまことに壮絶な行事があります.しかも、噂によると、経費節減のために「姫路ゆかた祭り」の縁日のキンギョすくいで余った、言ってみればやっとの思いで生き残ったものの疲労困憊しているキンギョを安く譲ってもらって、それをプールに放っているようです.それも、殺菌消毒のために塩素をバリバリに効かせた水に放たれるのですから、まさにキンギョにとっては地獄絵図.それでも子供にとっては楽しい行事です.とはいうものの、幼稚園児ごときに捕まえられるキンギョはそうそうおらず、最終的には1人5匹ずつすくってもらって、「いきもの観察箱」に入れてうちに持って帰ってきます.

さてもらってきたキンギョ、「うちはペット禁止」と言って、近所の川に直行するというのも、幼稚園児にとっては酷な話でありまして、いちおう飼おうということになります.しかし幼稚園児にお世話が出来るわけもなく、飼うのはお母さん、キンギョが死んで悲しむのは子供、という図式になります.上記の通り、非常に過酷な環境をかろうじて生き延びているキンギョに生存能力が残されていることは希であり、早い人では翌日に、遅くても1週間以内には1匹目がお亡くなりになります.生き物の生き死にというのを目の当たりにするのも教育としてはいいこととは思いますが、そのたびにキンギョのお葬式をするのもまた面倒なことであります.そんなことを子供二人分、計6年間続けたのであります.

というように、ほとんどの場合、1ヶ月以内には5匹のキンギョは全滅してしまい、玄関の下駄箱の上に置いてあったキンギョ飼育キットは、きれいに掃除されてまた来年の出番を待つと、そういうことになるはずなんですが、ある年のキンギョは違っていたんですねぇ.下の子が年中組の時、キンギョ飼育も5回目というときですが、その年のキンギョさんはなかなかお亡くなりにならないのです.そればかりかだんだん成長して大きくなっていきます.最初はプラスチック製の「いきもの観察箱」で飼っていたのですが、さすがに手狭になってちょっと本気の飼育水槽を買ってきました.それでもそのうちお亡くなりになるだろうと思っていたのです.なにしろうちは盆暮れ正月にはビッチリと実家に帰ります.冬場はさておき、夏場に10日間もエサ無し水替え無しで放置されればさすがにくたばっているだろうと帰ってみると、キンギョさんたちは全員元気で私たち家族を迎えてくれたのでした.

そうこうしているうちに、ついに次の年のキンギョが配給されるプール開きの日が来てしまったのです.今まではことごとく1ヶ月くらいで全滅していたキンギョさんでしたが、5匹全員が1年間生き延びたんです.しかも、子供が新しくもらってきたキンギョを見てビックリしたのですが、メチャクチャ成長していました.もらってきたキンギョは体長が3cm程度ですが、うちのキンギョは10cm超えています.しかもまるまると太って動きも俊敏で、何と立派に成長したことか.ちなみに、最後の年にもらってきたキンギョ5匹は、やっぱり1ヶ月もしないうちに全滅しました.飼い方の問題ではなくて、キンギョの個性のようですね.


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その生き残ったキンギョたち、そろそろ2年を超えて3年目に突入するかというような時期なのですが、ある日、水槽に入れてあるプラスチック製の人口水草に、プチプチッと何かがたくさん付いています.次の日に見てみると、目玉があるではないですか.卵ですよ、キンギョの卵.いや〜、キンギョって大きくなった状態でしか見たことが無くて、言われてみれば当たり前ですが、まさか卵を産むとは思っていませんでした.現在のキンギョさんたちは、口を開けると口径が8mmくらいありますので、もし卵がかえって稚魚が生まれたら、あっという間に食べられてしまいます.でまた面倒なことになったなぁと思いながらも、昔使った「いきもの観察箱」に水を張って、その中に人口水草ごと卵を移動しました.キンギョの卵がかえるのは、目玉が見えるようになってから2〜3日後あたりですね.生まれたばかりの稚魚は、どんな魚もそうでしょうけれど、ほぼ透明です.数にして、10や20ではききません.50以上はいるかと.そんなことをしているうちに、親キンギョの水槽に代わりに入れておいた別の人口水草に、また卵が付いているではないですか.こいつらいったいなんかい卵産むねん、と思いながらも人口水草のローテーションをします.で、「いきもの観察箱」の中ではキンギョの稚魚がますます増えていきます.その間にもまた、親キンギョは卵を産むんですねぇ.どうもキンギョっていうのは一回で産卵を終えるのではなくて、何回かに分けて産むみたいですね.回を重ねるにしたがって産む卵の数は減っていき、人口水草を4往復くらいしたところで産卵はいちおう止まったようです.

さて、キンギョの稚魚、というか、「キンギョから生まれた稚魚」とあえて言わせてもらいましょう.毎日観察するうちに、彼らの生態もちょっとずつわかってきました.まず、卵からかえったとき、彼らは泳げません.よくテレビなんかで稚魚が卵からかえったとたんに元気に泳ぎ出すような映像が出ていますが、そんなふうではないです.そんな元気は彼らにはありません.私は1回だけ卵から出てくるところを見ることが出来たのですが、1回ピクッと動いて頭だけ出て3分休憩.またピクッと動いて体が出てきて5分休憩.最後にピクッと動いてやっと卵から脱出.しかしその後は、じっとしたまま水槽の底に向かって沈没.こいつ生まれたてでもう死んだんかと思ってピンセットでちょっと触ってみると、ピクッと動くものの、また沈没.どうも、生まれたての時は泳ぐ元気というか筋力がないみたいですね.


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生まれたての時は水槽の底に沈んでいるか、運のいいものは人口水草にひっかかっています.1日くらいすると、自力で動いているようですが、でも、写真のように水槽のガラスにピッタリとくっついて身動きしません.どういう仕掛けでピッタリとくっついていられるのかはよくわかりませんが、コバンザメのようにくっついて動きません(コバンザメとは向きが逆ですけど).チョロチョロと泳いで自分でえさを食べられるようになるのは4日目あたりからでしょうか.この時期になるとおなかの栄養袋も無くなって、ちゃんとえさを食べているようです.1週間くらいたつと、体長も1cmくらいになって、元気に泳いでいます.

私は大きな誤解をしていました.稚魚がおなかに栄養袋を持って生まれて来るのは、最初はエサをとるのがヘタだから2〜3日はエサが取れなくても生き延びられるように、という目的だと思っていたのですが、うちの稚魚に限れば、卵から出たばかりの体では身動きが取れず、また、えさを食べても消化吸収する器官が十分発達していないので、いちおう卵からは出て呼吸だけは自分でしているものの、おなかの栄養を使って筋力や消化器官の成長をするための栄養袋だったんですね.最初はそれがわからずに何匹かの稚魚を死なせてしまいました.水に酸素を入れるためにエアーポンプでブクブクを入れるじゃないですか.次の日見てみたら、ブクブクの吹き出し口の周りで稚魚がたくさん死んでいたのです.ブクブクを入れると、多少なりとも水に流れが出来てしまうのですが、その流れの中を泳ぐだけの体力が生まれたばかりの稚魚にはなかったんですね.だからブクブクはやめにして、代わりに水草を入れて太陽光ランプを当てています.


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さて、1週間程度、最年長者で10日程度の稚魚たちの姿がこれです.体長はだいたい8mmから1cmオーバーくらいまで.自分でえさを食べるようになるとまず内臓に色が付きます.そしてしばらくすると、透明だった体に色が付くのですが、これがちょっとどうなることやら.上の方で、あえて「キンギョから生まれた稚魚」と書きましたが、この稚魚たち、どう見てもキンギョには見えません.色が付いてきたとはいうものの赤くないですし、どっちかというと黒っぽい茶色ですか、普通の川魚の稚魚と同じ色です.私はキンギョというものはいわゆるキンギョの色が付いている状態のものしか見たことがありません.キンギョというのは確立された種なのでしょうか.つまり、キンギョから産まれた稚魚は、今は茶色くても、ゆくゆくはキンギョの色になるものなんでしょうか.それが非常に興味深い点です.

私のうちの近所に真っ白いオシロイバナを咲かせる株が2つあります.普通は赤ですけど、そこのオシロイバナは毎年決まって真っ白なんです.で、そこから種を取ってきて自宅の鉢植えで育てたことがあるのですが、全部白と赤のまだら模様の花が咲きました.オシロイバナの白は劣性遺伝のようですね.キンギョの色はどうなんでしょうか.稚魚から育ててキンギョらしい色になったものだけをキンギョとして市場に出しているのだとすれば、うちの稚魚たちはみんな別々の個性的な色になることでしょう.それはそれで楽しいことです.私はキンギョの色が特別なもので、川魚はそれに劣っているなんて思っていませんので、うちの「キンギョから生まれた稚魚」たちが、どういうふうに成長していくのかとても楽しみです.

しかし困ったことに数が多すぎます.数えたことはない(数えられない)のですが、多分100匹くらいはいると思います.これが途中でお亡くなりになることもなく順調に育ってしまったら、うちはキンギョ屋敷になってしまいます(キンギョの色になるかどうかは別にして).かといって生き物ですから、飼うのにも手間がかかりますし、その命を全うするまで責任を持たなければなりませんので、やたらとご近所さんに配るわけにもいきません.キンギョ色になったら、おおもとの出所である幼稚園にでも引き取ってもらうか.姫路近郊にお住まいの方で手渡しの出来る方、「キンギョから生まれた稚魚」いりませんか.稚魚から育てるキンギョというのも(キンギョになる確証はありませんが)幼稚園くらいのお子様の情操教育にはいいかと思いますけど、どうでしょうか.お一人様5匹ずつくらいということで.