あけましておめでとうございます.

あけましておめでとうございます、といっても、今年もよろしくお願いします、といえるような状況ではなくて、なんと去年の5月以来ですよ、このblogを書くのは.何かあったとかいうわけでもなく、ただ単にやる気がなかっただけなんで、今年もいつ止まってそれっきりになってしまうかもしれません.そんななかで、なんでこのたび突然書く気になったかというと、大韓航空のいわゆる「ナッツリターン事件」ってありますよね.あれが、すごく気になるというか、飛行機が滑走路に向かっていったん動き出したのに、それを止めてしまうという姿に、なんか既視感があって、ずーっと気になっていたんですが、やっと思い出したんです.ウチの親父殿でした.

ウチの親父殿は2年前に胃ガンで亡くなりましたが、現役時代は新聞記者をしていました.面白いことにブチ当たりやすい性格だったのか、面白くないこともおもしろおかしく話すのがうまかったのか、ただ単に作り話にだまされていたのかわかりませんが、子供のころは非常に興味深い話をイロイロとしてくれました.特に、私の全く苦手な分野である、政治、経済、歴史、文学などが専門でしたので、わからないことを聞いても、池上さんよりわかりやすく面白く説明してくれたモノです.最近はネット上でも平気で「マスゴミ」という言葉が使われていることについては、もちろんあまり面白くは思っていませんが、たまに実家に帰って、かつて親父殿が記事を書いていた同じ新聞を読むにつけて、明らかに記事の質、つまり、記者の質が落ちていることを実感せざるを得ないような状態であり、「マスゴミ」発言もある意味しょうがないのかなと感じています.ただし、ゴミに向かって「ゴミ、ゴミ」という言うだけでは、自分にとってもなんの利益も発生しません.「マスコミ」が「マスゴミ」になってしまったのであれば、そのゴミの中からでも必要な情報を取捨選択して拾い上げる能力を各個人が磨く必要があるのではないかと思います.「分ければ資源、混ぜればゴミ」って言いますし.

さてその親父殿ですが、亡くなる2年前に胃ガンで胃を全摘出し、1年後にガンの再発を宣告されたあたりで自分も長くないと思ったのでしょうか、過去に自分の書いた新聞記事の切り抜きの中から、自分の残したいと思うモノをクリアファイルにまとめてありました.その中に、1980年ころに西ドイツに特派員として派遣されていたころの記事というか、帰国してから特派員生活を振り返った連載物があって、そのなかに、一度動き出した飛行機を止めた女の人の記事がありました.

ブルガリアに行ったときの記事です.当時は共産圏だったのですね.共産党の党大会を前に、各国の報道陣が詰めかけていたそうです.東側の国に西側の国の人間が入るのは当然、ものすごく警戒されるわけですが、中でも最上級に警戒されるのが西側のマスコミなんだそうです、という話を親父殿から聞いたことがあります.東側の政府としては、国民に西側の生活の様子が伝わるのを非常に警戒しているのですが、その情報を一番正確に沢山持っているのが西側のマスコミ陣ですので、絶対に国民と接触しないよに、強力に監視されるワケで、「通訳」という名目で一人ずつ監視役が付くそうです.

で、記事によれば「マリンカという目と胸だけが飛び抜けて大きな若い女性」が「通訳兼見張り番」に付いたそうです.モスクワ大学の日本語科を卒業したばかりの23歳で、「通訳」の仕事も初めてだったそうです.せっかくなのでブルガリアで誰か会いたい人はいないかと言われたので、2年ほど前に日本で取材をしたことがある、ブルガリアの「文化大臣」なら、もう一度会ってみたいと答えたら、「それはとても難しい」と答えたそうで、それもそのはず、その「文化大臣」は国家元首の娘であり、共産党の政治局員も務める、いわゆる「要人」で、一介の新聞記者ごときが会える人ではないはずだったのですけど、党大会の忙しいスケジュールの中で、30分だけなら会おうということになったんだそうです.恐るべし、マリンカの実力.

しかし、会見の予定時刻は、帰りの飛行機の出発時刻の1時間20分前.「とても間に合わない」と言うと、マリンカは「大丈夫」という.そして大臣は大方の予想どうり20分遅刻してあらわれ、会見は40分間行われたそうです.挨拶もそこそこにホテルを飛び出し、ソ連製の大型車に乗り込むと、ヘッドライトをつけて警笛をならしっぱなしにして、信号を無視して、空港に着いたときには、ちょうど飛行機の出発時間.乗るはずの飛行機はエンジンをかけて滑走路に向かっていたところで、マリンカが空港フロントで叫んだのは、たぶん「その飛行機待った!」だと思うのだけど、そうしたら本当に飛行機が止まったそうです.親父殿を乗せて、飛行機は10分遅れで出発したそうです.マリンカがすごかったのか、大臣から連絡が行っていたのか.連絡が行っていれば、たぶん飛行機は親父殿の到着を待っていたはずですよね.だからやっぱりマリンカが飛行機を止めたんでしょう.恐るべし、マリンカの実力.ちなみに、「マリンカ」とは日本語で「イチゴ」のことだそうです.